しに子ちゃん on LIPS 「愛してあげよう、わたしのことを。目の上の線があるとかないとか、..」

愛してあげよう、わたしのことを。目の上の線があるとかないとか、鼻中隔のあと何ミリの長さを嘆いたりだとか、あなたみたいな人になりたいとか、そうやってありのままのわたしを否定するのをやめたいの。 ずうっとほとんど見せずにきたんだけど、わたしはもともと右目がほとんど奥二重に近い末広で、左目は末広二重だった。いまは二重テープやたるみや傷で別の線ができてしまって、もうわたしの生まれ持った目はどこにもいない。 三角の眉を剃り落として平行眉を描いてきた。曲がった鼻筋が少しでもまっすぐに見えるようにハイライトを入れてきた。唇の張り出し具合や、耳の位置や大きさや、鼻先の丸さも太さも、頬骨の張り出し具合も、左右対象でないものを忌み嫌って生きてきた。 偏執の気があるので仕方ないことだったと思う。朝起きて二重の線に少しでも左右差があれば、まぶたがかぶれて切れても小さく切った絆創膏を貼っていた。左右差を目立ちにくくするアイシャドウやアイラインは大切にしているけど、少しの左右差ならそのままにさせておくことを覚えた、やっと、大人になって。 でもね、変わんないのだ、きっとたぶん、ほとんど変わんないの。他の人から見たら二重の幅も歯並びも、ピアスの数も変わらないの。他人は思っているよりわたしのことを見ていないの。笑ったときに左目が小さく萎んでしまうことも、右の口角があまり上がらないことも、他人からすれば変わらないのだ。 影になるからかメイクの仕方が悪かったのか知らないけど、写真では鼻先が下の影と混ざって潰れてしまった。ただでさえ低いわたしの鼻、母親譲りで重度のアレルギー性鼻炎持ちの鼻、鼻筋が左寄りから始まって右寄りを通り、左寄りで終わる少し曲線を描いた鼻。 愛せない、愛せない、わたしには愛せないよ。こんな未完成で不完全なものを、持って生まれてくるはずじゃなかった。わたしはもっと美しい外殻に、今生生まれつく予定だったのだ。 天は人に二物を与えずというけれど、ときどき二物も三物も持ってるギフテッドなやつがいる。例えば動画クリエイターからしたら、米津玄師は曲が作れて絵が描けて、動画にできて歌って踊れちゃう五物を与えられた人間に見えるように、複数の能力をそなえつけた人間がいる。わたしなんてバイト中、唐揚げ揚げながらサラダ盛るか、天ぷら粉練りながらもやし炒めを焦がさないくらいが能力の限界だというのに。 「わたし一物目まだなんですけど！？！？」ってしょっちゅう思う。しに子ちゃんはありとあらゆることに才能のない人間なので、世の中の複数個のギフト持ってる人の数だけ、なんにも才能がない人がいるんだろうな。わたしの分の才能持ってんの誰だろう、米津玄師だったらいいな。より人の役に立ってたらいいな。 才能がなくてさ、能力がなくてさ、時間も余裕も運もなくてさ、ないない尽くして背が低くて太っててブサイクでさ、自分に自信がなくて眉をしかめて口角下げて、どんどん醜くなるように生きてたよ、わたし。 醜いものが醜く生きていて醜いと罵られるのは仕方がないと思うよ。でも醜いことは罵っていい理由にはならないとも思っているよ。道理は通っても義理が通らないもん。人の見た目なんて絶対に罵倒してはいけないものだよ、例え本人が自虐してたとしても。 もうわたしは誰かに傷つけられることに辟易したし、誰かを傷つけることに懲り懲りしたので世界を全肯定して生きていきたいの。そっちのお前もこっちのてめーも正しいね、うん、人それぞれ正義が存在するもんね、という感じ。 本当はね、とにかく否定されたくないの。でもね、自分は誰かを傷つけておいて、自分だけは無傷でいようなんて都合が良すぎるから、そんな考え甘すぎるから、せめてわたしから始めようと思って。まずわたしが誰かを傷つけるのをやめようと思って、もう誰も傷つけたくないと思ったの。 でもね、一緒にわたし自身も肯定したいの。この顔のアレが嫌でコレが嫌いで、どこをどうしてナニをソレしようと思いながら生きることに疲れちゃった。もし自分のありのままさえ愛せていたら、自分で自分を呪わずに生きてこられたのに、と思うの。 ルッキズムなんて糞食らえだね、画一化された美の基準なんてわたしがシバいてどつき回して山へ捨ててきたる。美しいものの理想があるから、その規範から外れたものは醜くなってしまうんでしょ。くだらねえなそんなもん。 いいよ、いいよ、わたしたちは美しかったんだよ。ありのままでいてもよかったんだよ。可哀想に、黄金比マスクなんか押し付けられて、ブサイクの烙印を押されてしまったわたしたちの顔、醜くなんてなかったのに、わたしたちは可愛くて美しくて素晴らしかったのに。 くだらねえよ、くだらねえ、くだらねえよ学生生活なんて。クラスの湘南乃風とEXILE好きのツーブロ腰パンの男の子が、その彼女(成績優秀眉目秀麗、先生からの信頼も厚く学級委員長だった)をけしかけて、わざわざわたしの横へ立たせて足の太さを比較してせせら笑ったことがどうしても忘れられない。 人間のやることじゃねえなと思ったよ。自称進学校なんていくもんじゃないね、くだらねえ馬鹿ばっかだよ、だってどうせわたしが入れるくらいの高校だったんだもの。ロクな人間がいるわけないよね。くだらねえ学校にいってしまった。 わたし、肩幅がゴツくて平たい体型で、手足が短くて太かった。しかも滑り止め受験で本命落ちて慌てて制服買いにいったから、なぜか寸法間違いの制服ができてて、母に言ったけど取り合ってくれなかったから返品期間をすぎてしまって、スカートのウエストはガバガバだし丈は足首上10cmまであったし、ヘソで履けなくて腰骨で履くからスカート折ってもスカートの形が太くてデカいしクソだった。 制服が似合わない体型に、サイズも形も合わない制服を着せられて、足が細い女を勝手に横に並べられて笑われたのでは報われないね。ここで「絶対痩せて見返してやる！！」と思う女が理想的で好意的なのかしら。くだらねえよ、なんでてめーらの理想の女になってやらねえといけないんだよ、バーカバーカ！ わたしはてめーらの理想になんかなってやんないよ。わたしを笑ったてめーらは、わたしがぷりぷりおっぱいに薄い腹回りに、ふわふわした手足を持ったベリーえちえちガールだったことを知らないんでしょうね。可哀想に。 あたしの可愛い体を笑ったてめーらが憎いよ。わたしはわたしのことを可愛いと思ってるし、わたしを否定したくないよ。手足の太さも関節周りの丸さも、もうちょっとアレならいいなと思うことはあっても、せせら笑わなきゃいけないものだと思ったことはない。 わたし以外にわたしのことを、罵られたり否定されたりする道理はない。だってこれはわたしの人生でわたしの体だし、わたしが生きていくものだから。わたしじゃない他人に傷つけられる道理なんて一つもねえの、絶対に。 愛してやりたい。愛してやりたいよ、わたしのことを。でも問答無用にてめーを愛するには、わたしは傷つきすぎているし、愛する理由を汚されすぎてしまっている。唯一自分のことさえ愛せないなんて可哀想だよ。 こういう克己的な話では終盤に「理解のある彼くん」が出てきて、彼くんのおかけで何年もかけて自尊心を取り戻し、ときどきフラッシュバックに苦しんでも彼くんに背中をさすってもらって泣きながら寝落ちるってのがセオリーなんですけど、わたしは人生において恋愛を必要としないタイプの人間だし、わたし以上にわたしを理解できる人間なんて絶対にいねえと信心深く信じてるから彼くんを探すつもりもなくて草。 てめーの面倒くらいてめーで見るよ、わたしのメンタルだもん。見える傷なら知識があれば治療法が見えるだろうよ、でもこれは見えない傷だから、これを見れるのはわたしだけだから、わたしがわたしの力で癒すよ。わたしの人生なんだから。 まだ一人では無理だけど、いつか一重も奥二重も愛してやりてえなあ。人間ができてきたらさ、愛せるだろうね、わたしのことを。愛してやりてえの、過去の傷まで愛してやりてえ、茶色く変色した古傷も、うっかり擦った擦り傷も、ぜんぶぜんぶぜんぶ。 愛してえよ、愛したかったよう。まだちょっと人間ができてねえからさあ、どうしても苦しいね、ずっと爛漫に生きていくのは。