
東北大学発、次世代パール顔料が拓く美容の可能性とは?
私たちが日常的に目にする化粧品、特にアイシャドウやネイル製品に用いられるパール顔料は、製品に輝きと奥行きを与え、その魅力を一層高めます。東北大学の殷 澍(いん しゅう)教授の研究室において、基材不要な新規パール顔料の製法が開発されました。本記事では、次世代パール顔料が美容・コスメ業界にもたらす可能性について、LIPSが独自取材を通してお伝えします。
基材不要のパール顔料とはどんなもの?
東北大学多元物質科学研究所の殷 澍教授(同大 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)連携教授 兼務)・同大学院環境科学研究科博士課程後期課程の程秋雨さんが研究・開発された基材不要のパール顔料製法は、その独自の技術によって注目を集めています 。この研究は、大阪大学産業科学研究所との共同研究として行われました 。
従来のパール顔料の多くが、マイカなどの基材に多層コーティングを施す「サンドイッチ構造」の複合材料であるのに対し、本顔料は基材を必要としない「単一組成」である点が最大の特徴です 。粒子そのものがパール効果を発現するため、非常に鮮やかな発色と高い光沢性、そして見る角度によって色調が変化する「角度依存性」が実現されています 。
研究開始の背景と従来の顔料との違いは?

殷教授は、程さんとともに無機顔料の研究を行うなか偶然にも板状粒子が優れたパール効果を発揮することを発見し、これが新規顔料製造プロセスを開発するきっかけになりました 。
製造プロセスにおいて、本顔料は従来の多段階プロセスと比較して、ワンステップでの合成が可能です 。また、比較的低温での合成が可能なため、環境負荷が低い・製造が簡易になるという利点も持ち合わせています 。これは、持続可能な開発目標(SDGs)の視点にも合致すると考えられています 。
美容・コスメへの応用はどのようにされるの?

開発されたバナジウム系のパール顔料は、黄色、緑、青といった鮮やかな発色が可能であり、従来よりも色彩のバリエーションが豊富になっています 。高い光沢効果と角度依存性のある虹色といった特性は、アイシャドウ、ハイライト、ネイル、ボディコスメなどのアイテムで生かせると期待されています 。
しかしながら、バナジウム系のパール顔料は、化粧品としての利用実績がないため、薬機法などの規制をクリアするための安全性確認にコストがかかるという課題を抱えています 。そのため、現状のバナジウム系顔料のみで化粧品にすぐに応用は難しいとされています 。
一方で、ネイル製品など皮膚に直接長時間触れない用途であれば、応用可能性があるとのことです 。また、殷教授は、安全性が確認されれば、数百ミクロンサイズの大きな粒子がもたらす個性的な輝きが、非常にユニークなコスメ製品を生み出す可能性を秘めているとおっしゃっています 。
さらに、殷教授は、セリウムを用いた同様の顔料開発にも期待を寄せています 。セリウム系の板状粒子はファンデーションや日焼け止めに配合された実績があり、白色や黄色パール効果も実現可能であることから、安全性の面でもコスメへの応用がより現実的であると考えられています 。
今後の展望と市場への展開について

殷教授は、新しい顔料を用いた製品がいつ、どのような形で市場に出回るかは現時点では明確に予測できないとしつつも、その可能性は十分にあると見ています 。まず、化粧品以外の分野、例えば装飾プラスチック、車の塗料、携帯電話のケースなど、より幅広い加飾製品への応用からスタートする可能性が示されています 。
偶然から生まれた革新、未来の美を創造する技術

今回のパール顔料の製法は、研究室における偶然の発見から生まれたものです 。殷教授は、予測できない面白い結果が得られることが研究の醍醐味であり、偶然性を見逃さない視点の重要性を強調しています 。
殷教授からは今後の美容・コスメでの発展・展望ついて以下のようなコメントをいただきました。
『今回ご紹介するパール顔料は、バナジウムという元素を用いた、これまでにない輝きと光彩をもたらす新素材です。今後、より幅広いメイクアップ製品への展開も期待したいと思います。毎日のメイクに、“いつもとちょっと違う輝き”をプラスできるような、そんな新しい素材としてぜひご注目ください。』
東北大学発のこの画期的なパール顔料が、化粧品市場にどのような変革をもたらすのか、その動向に引き続き注目が集まります。