
ミネラルの可能性に注目!セリウム×カルシウムによる肌研究の最前線
近年、スキンケア成分として注目されつつある「セリウム」。これまで主に紫外線吸収作用や抗酸化作用で知られていましたが、佐賀大学とゼリア新薬工業株式会社の共同研究により、「カルシウムとの組み合わせが肌環境に影響を与える可能性」が示されました。
この発見は、美しさを支える肌の角層形成にどんな変化をもたらすのでしょうか。そのメカニズムや今後の製品開発への可能性について、徳留嘉寛教授にインタビューしました。
※本記事は研究内容の紹介を目的としており、特定の製品または成分の効果効能を保証・推奨するものではありません。
カルシウムとセリウムってどんな成分?
「骨や歯を丈夫にする成分」というイメージが強いカルシウムは、実は肌の角化やターンオーバーにも欠かせない重要なミネラルでもあります。
- 角化:細胞が生まれてから肌表面の角質細胞になるまでのこと
- ターンオーバー:細胞が角質細胞となり、垢として剥がれ落ちるまでのこと
肌表面(表皮)をつくる角化細胞(ケラチノサイト)は、カルシウムイオン濃度が高まることで“成熟スイッチ”が入り、細胞分化がスタート。角質細胞となり、その過程で最終的にはバリア機能やうるおいを生む角層を形成します。
古くなった角質細胞はやがて剥がれ落ち、肌は一定期間でこのサイクルを繰り返します。つまり、カルシウムは健やかな肌をつくるうえで欠かせない中心的な存在なのです。
一方のセリウムは、主に紫外線吸収剤や抗酸化作用で知られているミネラルの一種ですが、皮膚細胞への生理作用はこれまでほとんど研究されていませんでした。
なぜ“カルシウム×セリウム”に注目したのか?研究の出発点
徳留教授が所属する佐賀大学・化粧品科学講座では、化粧品成分が皮膚内でどのように働くかを研究しています。その一環として、ゼリア新薬工業株式会社と共同で取り組んできたのが、岩石の一種「聖徳石」から得られたミネラルエキス(聖徳石浸出液)の解析です。
これまでの研究で判明していたのは以下の2点。
- 聖徳石浸出液にはカルシウムイオンをはじめとした多数のイオンが存在する
- 聖徳石浸出液が肌のターンオーバー(表皮細胞の分化)に影響する
しかし、浸出液に含まれるカルシウムイオン濃度は、細胞分化に必要な濃度よりもはるかに少ないにも関わらず、効果が確認されました。そこで研究チームは、「なぜ少量でも効果が現れるのか」「カルシウムの働きを補助する成分が存在するのではないか」という疑問を抱き、浸出液に含まれるイオンを徹底的に測定。その結果、複数の候補が浮かび上がり、なかでも特に注目されたのがセリウムでした。
どんな実験で検証した?カルシウムとセリウムの作用を確かめるプロセス
「セリウムがカルシウムと協働して角化細胞の分化を促すのではないか」という仮説を立てた研究チームは、少量のカルシウムイオンとヒト由来表皮角化細胞を使ってさらなる検証を開始しました。
カルシウムイオン単独の場合とセリウムを併用した場合、それぞれの①細胞内の形態変化、②分化マーカー遺伝子の発現量、③細胞内のカルシウムイオン濃度の推移を比較観察しました。
その結果、セリウムを併用した条件下では、細胞内のカルシウム濃度が上昇する傾向が観察され、仮説との関連が示唆されました。
セリウムが加わると何が変わる?細胞内で起きていた驚きの変化
通常、ケラチノサイトの分化は、細胞内のカルシウム濃度が高まることで始まります。そのためには、カルシウムが細胞膜上のレセプター(TRP・VDCC・Orai1・CaSR)を通って細胞内に入らなければなりません。
今回の研究で明らかになったのは、セリウムを併用すると、“カルシウムの通り道”ともいえるレセプターが増え、カルシウムを取り込みやすくなるということ。
セリウム自体が皮膚や細胞に直接働きかけるわけではありませんが、セリウム存在下ではカルシウムの動きが活発化。ケラチノサイトの変化も見られたことから、さらなるメカニズム解明が期待されます。
これは、“肌の生まれ変わり”への新たなアプローチ
では、この発見は私たちのスキンケアにどのように役立つのでしょうか。
肌は本来、約28日周期で生まれ変わるのが理想です。しかし、加齢や紫外線の影響でターンオーバーが乱れると角層が厚くなり、ゴワつきやくすみの原因になります。つまり、美しい肌を保つには、ターンオーバーを適切に維持することが欠かせません。
ターンオーバーを"自然に"サポートするカルシウムの重要性は広く認識されてきましたが、カルシウムを高濃度で化粧品に配合するのは技術的に難しいという課題がありました。
そういった背景のなか、今回の研究では、少量のカルシウムでもセリウムと併用することで、細胞に関連する指標の一部において従来比で 10 倍以上の変化が観察されたことが明らかに。
この知見は、従来の課題を乗り越え、肌の生まれ変わりをより自然な形で促す新たな可能性として、今後の応用やメカニズム解明が期待されています。
機能性と安全性の両立を目指して

“セリウムがカルシウムの働きをアシストしている”という知見は、世界で初めての発見。実際に、今後この知見が化粧品開発に応用されていくかどうかは未定ですが、徳留教授は「可能性はある」と語ります。
「セリウムはカルシウムだけを応援できる存在なのか、複数の成分をアシストできる存在なのか。引き続き研究していきたい」と、今後の研究への思いを話しました。

さらに研究と並行して注力しているのが、次世代研究者の育成です。 佐賀大学では2026年、日本初となる「コスメティックサイエンス学環」を新設予定。化粧品成分の安全性・有効性を多角的に学び、安心できる製品づくりに貢献できる技術者の育成を目指します。
機能性の高い化粧品が次々と登場する今、重要なのは「効果があるかどうか」だけではありません。どの成分が、どのように肌に作用し、どのようなリスクがあり得るのか。成分の作用を正しく理解し、安全性を見極める科学的な視点がこれまで以上に求められています。
セリウム×カルシウムの新メカニズムを解明したこの研究は、機能性と安全性を両立した未来のスキンケアへ向けて、大きな一歩となりそうです。
<参考文献>
1. Kei Tsukui, Masamitsu Suzuki, Miyu Amma and Yoshihiro Tokudome *, Synergistic effect of cerium chloride and calcium chloride alters calcium signaling in keratinocytes to promote epidermal differentiation, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 88, 1432-1441, 2024. https://doi.org/10.1093/bbb/zbae131
2.Kei Tsukui, Takuya Kakiuchi, Hidetomo Sakurai and Yoshihiro Tokudome *, Shotokuseki extract promotes keratinocyte differentiation even at a low calcium concentration,Applied Sciences, 12(5), 2270, 2022. https://doi.org/10.3390/app12052270
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