温泉の“癒される感覚”は科学的に説明できる!?大阪大学×マンダムが挑む“入浴×神経科学”の新領域のサムネイル

温泉の“癒される感覚”は科学的に説明できる!?大阪大学×マンダムが挑む“入浴×神経科学”の新領域

日本に深く根づく温泉文化。「身体が温まる」「リフレッシュできる」といった感覚の正体を、科学的に解き明かそうとする研究が進んでいます。

大阪大学とマンダムの共同研究チームは、温泉成分の一つである「ミョウバン」が、細胞の感覚センサーの働きを抑制する可能性を発見。鎮痛メカニズムを分子レベルで解明しました。

温泉はなぜ気持ちいいのか。今回は、「温泉×神経科学」の新領域に挑む産学連携研究の舞台裏と、共同研究の意義について取材しました。

LIPS編集部
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そもそも、人が温度や刺激を感じるのはなぜ?

温泉に浸かると、じんわりと身体が温まって気持ちいいですよね。温かい、熱い、冷たい、痛い、ヒリヒリする——。

私たちが日々感じているこうした刺激は、細胞に備わった「感覚センサー」によるもの。その正体こそ、今回の研究のカギとなる「TRP(トリップ)チャネル」です。

温度や刺激を感知するセンサー「TRPチャネル」

TRPチャネルとは、温度や化学刺激を感じ取るセンサーのこと。皮膚をはじめとする全身の細胞に存在し、種類ごとに働くエリアや、反応する温度・化学物質が異なります。

細胞の感覚センサーTRPチャネル

出典:マンダム公式サイト

現時点で、人間の身体には11種類の温度センサーがあるといわれています。そのうち、主に感覚神経で働いているのが次の3つです。

感覚神経にいるセンサー
  • TRPV1:熱、カプサイシン(唐辛子)などに反応。熱さや痛みを感知する
  • TRPA1:温かさ、冷たさ両方に反応。痛みやツンとする感覚を感知する
  • TRPM8:冷たさ、メントール成分などに反応。冷たさやスースーする感覚を感知する

例えば、わさびを食べたときに鼻の奥がツーンとする感覚は、わさびに含まれる成分がTRPA1を刺激することで生じます。このようにTRPチャネルが全身で働くことで、私たちは環境の変化に順応できているのです。

長年の研究で見えてきた「アルミニウム」の可能性

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TRPV1が人間の温度・痛みのセンサーであると判明したのは1997年のこと。その機能にはいまだ未解明な点も多く、マンダムの藤田郁尚氏¹は20年以上に渡り、TRPチャネル研究の第一人者である富永真琴氏*²と共に研究を続けています。

その過程で、2013年には石井健氏³と共同し、ワクチンの免疫補助剤として用いられている「アルミニウム化合物」に着目しました。医療現場で身近なこの素材には、TRPチャネルへの未知の作用があると考えられたからです。

2015年以降は大阪大学へと研究拠点を拡大し、長年の研究を経て、ついに「硫酸アルミニウムカリウム(以下:アルムK)が神経の痛みセンサーの働きと深い関係がある」可能性が見えてきました。

*¹ 株式会社マンダム シニアスペシャリスト、大阪大学大学院薬学研究科先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座 招へい教授*²名古屋市立大学 なごや先端研究開発センター 特任教授、*³東京大学 医科学研究所 感染・免疫部門 ワクチン科学分野 教授

温泉成分の働きを調査する実験がスタート

実は、この「アルムK」は「ミョウバン」のこと。食品添加物や温泉成分として、私たちの暮らしの中で長く親しまれてきた身近な成分です。

そこで研究チームは、ミョウバンを豊富に含む大分県別府市・明礬温泉の「湯の花」に着目しました。ミョウバン単体、明礬温泉の湯の花、そして硫化鉄の3種類を用いて、痛みセンサーであるTRPV1およびTRPA1の反応を調査しました。

検証方法

この研究では、痛みを感じる仕組みを細胞レベルで再現し、アルミニウムの影響を検証しました。

実験に用いられたのは、TRPV1やTRPA1といった、痛み刺激に反応するTRPチャネルを持つHEK293T細胞です。その細胞に刺激物質を加えることで、細胞が痛みを感知している状態を人工的に再現しました

そのうえで、次の3条件を比較しました。

  1. ミョウバン(アルムK)のみを加えた場合
  2. 明礬温泉由来の湯の花を加えた場合(複数の成分を含む)
  3. 硫酸鉄のみを加えた場合

各条件において、細胞内のカルシウム濃度の変化や細胞膜を流れる電流の増減を測定。それぞれ、痛みセンサーがどの程度反応しているかを調べました。

検証結果

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(参考文献より改変して引用)

実験では、①と②(ミョウバンを含むもの)の場合は、TRPV1とTRPA1の動きが穏やかになった一方で、③の場合は大きな変化が見られませんでした。

この結果から、ミョウバンが痛覚に関わるセンサーの応答に影響する可能性が示唆されました。温泉に浸かったときの「気持ちいい」という感覚的な体験を、分子レベルで考察するうえでの手掛かりとなり得る知見です。

温泉の心地よさを、科学的に説明するための第一歩

「温泉療法」という言葉が生まれるほど、長らく親しまれてきた温泉文化。しかし、その心地よさのメカニズムについて科学的に議論される機会は決して多くはありませんでした。

近年になってようやく、さまざまな研究者による検証が進み、温泉成分とその働きが少しずつ明らかになりつつあります。そして今回、代表的な温泉成分である「ミョウバン」について、痛覚に関わるTRPチャネル(TRPV1、TRPA1)の活動に抑制的に働く可能性が示唆されたのです。

さらに、高温・酸性条件下ではその抑制的な傾向がより明確に観察されました。藤田氏は、今回の成果を、温泉の科学的有効性を説明するための“第一歩”と位置づけています。

“温泉×神経科学”の解明は、共同研究だからこその成果だった

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本研究の論文発表は2025年ですが、実は2020年頃には「アルムKが痛みセンサーに影響する可能性」が副次的に観測されていたのだそうです。しかし、当時は皮膚の免疫研究が主軸だったため、神経への影響調査は一旦棚上げとなっていました。

転機は2023年。新たな大学院生がチームに参画したことで、中断していた研究が再始動します。過去の蓄積に新たな視点が加わり、今回の成果へと結実したといいます。企業と大学が共同で研究する意義について、藤田氏は次のように語ります。

「大学では、一つの研究室にさまざまな視野を持つ人が集まります。企業からの出向者、国内外の研究者や学生など、異なるバックグラウンドを持つ人同士が議論することで、イノベーションが生まれやすい。今回の研究も、まさにそうした環境から生まれた成果だと思います。」

「温度センサー」研究が、化粧品・医療分野の可能性を広げる

メカニズム解明のカギとなったセンサー「TRPチャネル」には、いまだ多くの謎が残されています。どの条件下で、どの細胞に存在するTRPチャネルが、どのように働くのか。年齢や性別、人種によって発現パターンは異なるのか…。詳細の解明に向け、日々研究が続けられています。

その先に見据えられているのが、化粧品や医療分野への応用です。感覚や刺激の仕組みを理解することは、より心地良く使える製品開発へとつながります

「温度が変化しやすい皮膚の周辺には、さまざまな細胞が存在し、多数の温度センサーが発現しています。そこには必ず意味があるはずです。その意味を明らかにすることで、将来的に化粧品や治療薬の開発へとつなげていければと思っています」と、藤田氏は語ります。

皮膚という身近な場所で起こる感覚の仕組みを、一つひとつ解き明かしていく。その積み重ねが、私たちの日常の快適さを考えるうえでのヒントとなることが期待されます。

<参考文献>

Hirotaka Aoki, Masayuki Takaishi, Jun Usukura, Takeshi Hara, Ken J Ishii, Makoto Tominaga, and Fumitaka Fujita, Aluminum potassium sulfate inhibits TRPV1 and TRPA1 activation, PAIN RESEARCH 40(1) 31-36, 2025 https://www.jstage.jst.go.jp/article/pain/40/1/40_31/_pdf/-char/en

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